東芝情報システム株式会社

非接触で製造現場の"異常"を見守る、手のひらサイズの VisilantEye®

工場などの製造現場では、工作機器の発熱や冷却水の漏れのほか、資材の乾燥ムラなど、目に見えにくいトラブルが日々発生しています。こうした課題に応えるため、目に見えない現象を非接触で検知する「VisilantEye(ビジラントアイ)」を開発しました。

Visilantは、visible(視認できる、見える)とvigilant(注意深い、警戒する)の二つの言葉を組み合わせた造語です。VisilantEyeは、温度や漏水、乾燥の状態を離れた場所から非接触で検知できるマルチセンサーです。今回はVisilantEye開発の中心メンバーである永田さんに、製品の特長や開発の経緯、今後の展望について伺いました。
LSIソリューション事業部
永田 真一

LSIソリューション事業部
永田 真一

開発の原点は「乾燥検知」だった。VisilantEye誕生の背景

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ーVisilantEyeの開発は、どのようなきっかけから始まったのでしょうか?

当社では以前、衣類に挟んで乾燥を検知するコンシューマ向け製品「乾送ミミダス」を開発しました。乾送ミミダスは家庭用としては評価をいただいたものの、リネンサプライ工場のように大量のシーツやタオルを扱う現場では、1枚ずつ挟む手間がかかるため実用的ではありませんでした。そこで、カメラのように設置できる非接触型の検知システムを工場向けに作ろうと考えたのが開発のきっかけです。
VisilantEyeの開発を進める中で、濡れたものが乾くときに表面温度が下がる「気化熱」の変化が、想像以上にはっきりと検出できることが分かりました。
VisilantEyeでは、サーマルセンサーが捉えた放射温度データを解析し、気化熱を検知する仕組みを開発したため、乾燥だけでなく、対象の表面温度そのものも把握できます。さらにサーマル画像の変化を分析することで、冷水や温水の漏れといった漏水も検知できることが分かりました。
もともとは「乾燥工程を見守れないか」という発想から始まった開発が、検証を重ねるうちに、温度や漏水の検知機能へと拡大していったのです。

ーVisilantEyeの仕組みを、もう少し詳しく教えてください。
VisilantEyeは、サーモカメラなどで使われるIRアレイセンサーを用いて、物体の放射熱を測定します。一般的な温度計が"空気の温度"を測るのに対し、VisilantEyeが測定するのは"対象物の表面温度"です。
まず乾いた状態の温度画像をあらかじめ記憶しておきます。そこに濡れた衣類を置くと、蒸発時の「気化熱」によりその部分の表面温度が下がり、VisilantEyeの画面上では水色で表示されます。乾燥が進むと気化熱の作用がなくなり、温度が常温へ戻って全体がグレーに変化します。VisilantEyeでは、この色の変化をもとにシステムが「乾燥した」と判断する仕組みになっています。
またこの仕組みを応用して、冷水や温水など温度差による漏水検知も可能になりました。
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ー設置の手軽さや運用性にも工夫されたと伺いました。

VisilantEyeは、すでに稼働している工場でも簡単に設置できるように設計しました。市販の三脚などを使い、ネジ穴にボルトで固定できる構造となっています。サイズは約79×63×48mm、重さは78gで、手のひらに乗るサイズ感です。展示会では「思ったより小さいね!」という声をよくいただきます。

検知距離は、温度検知が最大10m、漏水検知が3m、乾燥検知が5mほど。画角は水平55°、垂直35°で、感覚的には「1m離れた場所でおよそ1m幅を見られる」イメージです。ただし距離によって検知できる熱源の大きさが変わってくるため、熱の変化が確実に捉えられるよう、お客様自身でVisilantEyeの位置を調整し設置していただく想定です。
外部機器との連携も可能で、すでにお使いのPLCなどに接続すれば「異常が起きたら機械を停止する」「管理システムに警告を表示させる」といった機能も実現できます。

温度・漏水・乾燥 1台3役で現場を見守る

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VisilantEyeは、1台で「温度の異常検知」、「漏水検知」、「乾燥監視」の3役をこなす多機能センサーです。非接触で対象物の表面温度を捉える仕組みにより、設備や機器の状態を手軽に“見える化”。温度変化という共通の指標で、さまざまなトラブルの兆候を早期に察知します。

温度検知|異常発熱を"非接触で見守る"新発想

ーどの工程で発熱・冷却異常が起きやすいか教えてください。
発熱はさまざまな工程で発生します。例えばロボットのアームを駆動するモーターは負荷がかかると発熱しやすく、故障や発火の原因になることがあります。倉庫などでモバイルバッテリーが発火する事故も、発火の前には必ず温度上昇が見られます。そうした異常を早期に検知するために、VisilantEyeは有効です。
一方で、樹脂を型に流し込んで成形する装置では、金型の温度が高すぎても低すぎても樹脂製品の品質に影響します。こうした工程では、VisilantEyeを適正な温度を維持するための検知システムとして活用できます。冷却異常としては、冷却ガスの漏れによる温度上昇などが挙げられます。また、スーパーなどでアイスクリームや冷凍食品を陳列するケースのように、設定温度を適切な温度範囲に維持しておく必要がある設備の温度見守りにも応用できるでしょう。

ー従来も温度検知は行われてきたのですよね?従来の検知器にはどのような課題があったのでしょうか。
従来は、接触型の温度センサーである熱電対を装置の表面に取り付けたり、温度の変化を色の変化で記録する示温シールなどを用いたりして温度検知が行われていました。非接触ではなく、対象物に直接触れて表面温度を測定する仕組みです。ただこの方法では、取り付けに手間がかかる上、線が切れたり故障したりとメンテナンスの負荷が発生します。しかも温度がわかるのは、貼り付けた部分のみです。
サーモカメラは非接触ではありますが、機能は「温度を測るだけ」なので、結局は人が現場まで確認に行かなければなりません。
このように今までは、検知機能はあっても誰かが付きっきりで監視したり、あるいは片手間に確認したりする必要がありました。運用は実にアナログなのだといえます。

ーVisilantEyeはその点をどう解決しているのでしょうか。
VisilantEyeは、これまで目視で確認していた「乾燥」、「漏水」、「温度異常」を自動で、かつ非接触で見守ることのできるデバイスです。
上限・下限温度を設定しておけば、画角内の対象物を常に監視し、異常があった際には本体が光って知らせます。外部機器と連携すれば、別の場所でも異常を把握できます。従来のように貼り替えや点検といった手間もなく、設置しておくだけで継続的な監視が可能です。

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ーVisilantEyeを導入することで、どのようなメリットが得られますか?
まず、機械の温度が上昇して危険な範囲に達した場合には、本体が光って異常を通知します。これにより、モーターや装置の一部が発熱して火災につながるような事態を未然に防ぐことができます。
発熱異常の検知だけでなく、適切な温度範囲を維持しなければならない機材や材料の温度管理にも活用できます。これにより製品の品質を維持したり、不良品の発生を軽減したりする効果が見込まれます。
また乾燥工程では、電力を多く消費する乾燥機の稼働を最適化できます。乾燥状態をリアルタイムで監視し、完了したらすぐに停止することで、無駄な稼働を減らしエネルギーを節約できます。

漏水検知|触れずに気づく、安全ラインの新基準

ー工場では漏水がどのような課題になっているのでしょうか。
開発当初、私たちは製造現場で漏水がそれほど頻繁に起こるとは想定していませんでした。ところが現場の方々にお話を伺うと、「よく漏水が起こって床が水で濡れている」という声が多かったのです。漏水は少しずつ広がるため発見が遅れやすく、放置すると環境汚染やラインの停止、製造機器のトラブルにつながるおそれがあります。さらに冷却水が製造装置から漏れると、冷却機能の低下によって装置が加熱・発火するリスクもあります。

ー従来型の漏水検知にはどのような課題がありましたか?

一番の課題はメンテナンスの手間がかかることです。従来から使われている漏水検知テープは、機械や製造装置を囲うようにして床に貼り付けて運用します。ところが、その上を人が歩いたり台車が通ったりすると、テープが浮いたり切れてしまうことが多いのです。はがれたテープに足を引っかけてしまうケースもあり、貼り直す手間も危険も伴います。
こうした背景から、「非接触で漏水検知できないか」というご要望を多くいただいていました。

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ーVisilantEyeはどのように漏水を監視するのでしょうか。

VisilantEyeは、漏水のない状態の温度をあらかじめ記憶し、冷水や温水が漏れることで変化する温度分布を常時監視します。監視範囲内で漏水が発生すると、その場所が画面上に表示されるため、どこで起きたかをすぐに把握できます。
設置しておくだけで、かつ非接触で漏水を検知でき、貼り替えや点検といったメンテナンスの手間も不要です。検知タイミングも従来のテープ型と同程度で、現場の負担を大幅に軽減できます。

乾燥検知|"勘と経験"から、データで見る乾きへ

ーどのような製品・工程で乾燥管理が必要とされているのでしょう?
大量の衣類やタオルを扱うクリーニング工場や医療施設などへの導入を想定しています。VisilantEyeを設置することで、乾燥の進み具合をリアルタイムで確認でき、工程管理や作業効率の向上につながります。
「乾かす」という工程は意外と多くの現場に存在するため、食品関係の工場などでの応用も期待できると考えています。

小さな工場の"小さなDX"を実現していく大きな存在に

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乾燥、漏水、温度の日常的な点検やメンテナンスの手間は、意識していないだけで実は現場の大きな負担となっています。VisilantEyeは、設置するだけで手軽に運用でき、メンテナンスもほとんど不要です。こうした扱いやすさが、現場の省力化や“小さなDX”の実現につながっていくと期待しています。

ーメンテナンスやランニングコストの面で、どのような利点がありますか?

VisilantEyeはUSB給電で動作し、対象に向けて設置するだけで使用できるため、導入や運用が非常に手軽です。それにメンテナンスの手間もかかりません。
VisilantEyeは単体で動作し手軽に運用できることを目指して開発しましたが、広い現場で装置や機械の異常検知を集中管理したいというご要望もあります。このようなご要望には、当社の省電力無線メッシュネットワーク「NetNucleus® LPWA」にVisilantEyeを組み合わせた施設監視ソリューションをご提案できるよう準備を進めています。
さらに、VisilantEyeを応用したシステムをお考えのSier様からご要望があれば、センサーデータのリアルタイム出力や検知結果の出力など、ご要望に応じた機能拡張も検討しています。

ー現場の"見守り役"として、VisilantEyeが果たす役割をどのように捉えていますか?

工場では温度管理がさまざまな場面で行われていますが、多くは技術者の経験や感覚に頼っていたり、作業の合間に確認していたりするのが実情です。
近年はDXの推進が叫ばれていますが、「何から始めればいいのか」と一歩踏み出せない現場も少なくありません。温度検知にサーモカメラを導入しても、真の意味での自動監視に至っていないケースもあります。
VisilantEyeは、温度の基準を設定しておくだけで、その範囲を外れた際に自動で通知できます。設置しておけば常に監視してくれる“見守り役”として、現場の負担を大きく減らすことが可能です。
VisilantEyeを実際に使っていただくことで、その便利さを実感していただけると思います。こうした取り組みが各所に広がっていけば、「小さなDX」が自然に根づいていくのではないかと期待しています。

ーVisilantEyeを通じて、どのような製造現場の未来を実現していきたいですか?

VisilantEyeが、日本各地にある小さな工場の「小さな改善・小さなDX」を支える存在になれたらと考えています。
これから新設される大規模な工場であれば、監視の仕組みを設計段階から組み込むこともできますが、すでに稼働している現場ではそうはいきません。VisilantEyeなら、既存の設備にも簡単に設置でき、電源をつなぐだけで運用を始められます。
価格面でも、気軽に導入いただける水準を目指しており、実際に使っていただくことで、その手軽さと便利さを実感していただけると考えています。
VisilantEyeをはじめとする東芝情報システムのセンシング技術を通じて、現場から“小さなDX”を積み重ね、ものづくりに携わる方々がより快適に、より安心して働ける環境づくりに貢献できればと願っています。
まずは、気軽にお問い合わせください。


※記事内における内容、組織名などは2025年11月公開時のものです。
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