東芝情報システム株式会社

人体通信におけるノイズ除去の重要性

人の身体でデータをやり取りできる人体通信の研究がされていますが、静電気などのノイズが妨げになっており、なかなか実用化されていません。人体通信は人の体の微弱な電気を利用します。そのため通信にノイズが混ざってしまいます。スムーズな人体通信を実現するには、ノイズ除去が不可欠になります。当社はタッチパネルセンサー開発においてフィルタや補完処理などのノイズ除去に取り組んでいた経験があるため、人体通信のノイズ除去においてもその経験を活かすべく技術研究を進めています。
エンベデッドソリューション事業部
永井 辰憲

エンベデッドソリューション事業部
永井 辰憲

人体通信の妨げになるノイズについて教えてください

 人体通信は微弱な電気を介して通信を行うもので、送信元の信号を人体を介して受信側に伝える技術です。 (図-1)
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 ところが、人体を介すことでノイズが混ざるという問題が発生します。当社では、このノイズをどのように除去するかに取り組んでいます。発信される信号が目的のゴール地点に到達するまでに変化してしまうものがあれば、人体通信ではそれらをすべてノイズと位置付けます。ノイズによって信号が変化した状態は波形で確認することができます。(図-2)
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 本来の信号とは関係ない何かが加算されてしまうと、信号は目的地点に到達しないか、あるいは間違った信号に変化して到達してしまいます。波形の乱れはそのような状態を表します。人体通信がさまざまなシーンで行われると想定すれば、ノイズに影響される場面も多種多様になります。つまり、ノイズを発生させるノイズ源が至るところにあると考えなければなりません。

ノイズ源にはどのようなものがあるのでしょうか

 人体を介すという点でわかりやすいのは冬場によくある強い静電気です。例えば蛍光灯の近くやコンセントの近くなど静電気の発生しやすい電気機器から伝搬するものが考えられ、これらは通信で必要な電圧の変化の妨げとなります。また、人体通信では通信ケーブルを使う訳ではないので、タッチする人間の皮膚の乾燥あるいは湿気状態もノイズ源になります。例えば、汗などのノイズが多くある部分に信号が流れると、ゴール地点に向かうにつれて信号が弱くなってしまいます。データに邪魔者が付随され、違うデータとして認識してしまう状態となります。(図-3)
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ノイズを取り除くためにどのような取り組みをされているのですか

 さまざまなノイズ源から出るノイズを100%取り除くことはそもそも難しいので、可能な限り除去して適した信号だけを判別できれば、情報解析には支障をきたさないと考えています。例えば50~60Hzの周波数を出す蛍光灯からは静電気反応があり、これも十分なノイズ源に相当しますが、蛍光灯のある環境は予め把握できるので、ノイズを避ける対策を講じやすくなります。このようにさまざまな視点で取り組むのがノイズ除去のあるべき姿だと思います。
 そこで当社では、これまでの業務で培われたハードウェアの制御やデータ処理のソフトウェア開発知見を生かし、ノイズをソフトウェアで除去することに取り組み始めました。ハードウェアの回路構成や、ノイズ除去専用のICを使った対策が一般的かもしれませんが、ハードウェアは一度つくると変更しにくく、しかもパーツの量も多くなり、機器の意匠的な点からも課題が多いと考えられます。ノイズ除去の目的は正しい信号を正しく送ることに尽きるという観点から、ソフトウェアでもデータ内にあるノイズと目的のデータを区別してノイズ除去が可能だと判断し、研究を進めています。
 また、ノイズ除去は処理に時間をかければかけるほど除去できるノイズの量は多くなります。しかし、処理時間が長ければ通信に遅延が発生しかねません。そこを程よく調整できることがソフトウェアを使うメリットです。

社会への応用としてはどのような事が考えられますか

 今後さまざまな場所で使われると思われる人体通信は、セキュリティを重視したものに適用されると考えています。例えば、最近身近になったスマートキーも「リレーアタック」という悪質な手口による犯罪が出てきています。スマートキーの発する電波を利用する代わりに人体通信を利用することも可能ではないかと思います。また、「タッチする行為だけ」を考えた場合、人体通信は、スマートキー以外にも自動改札機、自動販売機決済、建物の電子キーなどに活用できると考えられています。しかし、スムーズな人体通信を実現するには、データの送受信過程で生じるノイズをいかに除去するかはやはり課題になります。
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今後の取り組みについて教えてください

 ノイズは、人・場所・近くに置かれているものなど、さまざまな条件で変わることや、当社のソフトウェアによるノイズ除去の取り組みをご紹介しました。しかしそれだけではなく、予めノイズ発生の条件が分かれば、通信時に送信側でノイズが乗りにくい信号をつくり出すこともできるはずです。それをAIで学習させたり、ノイズの特徴に応じてAIが適した信号にナビゲートしてくれたりすることができないかと考えています。今後は、こうした技術の組み合わせによるノイズ除去の深掘りがテーマです。組み合わせという意味では、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせも重要だと思います。大まかな部分はハードウェアで、細かな部分はソフトウェアで行うのが理想のノイズ除去なのかもしれません。テータの正確な伝送を実現させるために欠かせないノイズ除去は、人体通信に限らず、これからますます注目されてくると考えています。

※記事内における内容、組織名、役職などは2022年4月公開時のものです。
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