東芝情報システム株式会社

近距離無線通信の新スタイルを実現する Bluetooth Low Energy

注目されるメッシュネットワーク、方向検知、オーディオの次世代規格、これらの機能でBluetoothの活躍シーンが広がろうとしています。ハンズフリーやオーディオ機能など、従来の用途にとどまらないBluetooth Low Energyによる近距離無線通信の新しいスタイルがスタンダードになっていくために、市場のニーズに対応したさまざまな研究開発を進めています。
エンベデッドシステム事業部
中山 貴弘

エンベデッドシステム事業部
中山 貴弘

Bluetoothとの関わりについて教えてください

 スウェーデンのEricsson社が新しい近距離無線通信規格の開発を開始したのが1994年のことです。1998年5月には(株)東芝を含むプロモータ5社でBluetooth SIG(Special Interest Group)が設立され、規格策定を始めました。これがBluetoothの誕生です。私は、Bluetoothの誕生以来長く開発に携わってきました。
 Bluetoothが使用される場面は、登場して数年はBluetoothで通信できる評価ボード程度でしたが、2005年頃からは、携帯電話と自動車への搭載を機に流れが一気に変わりました。車で音楽などを楽しむ際のBluetoothを使った車載オーディオが身近になったのです。この時期の私は、カーナビ向けのBluetoothチップのファームウェアを開発し、ハンズフリー機能、電話帳転送機能、オーディオ機能を中心に開発を進めていました。このBluetoothを搭載したカーナビが初めて発売されたのも2005年頃です。
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Bluetoothはどのように発展してきたのでしょうか

 現在では、Bluetoothは世界的に認知され身近な存在となっており、このような広がりを開発参画当初の私は想像もしていませんでした。2009年頃は、携帯電話とヘッドフォン、あるいは携帯電話と車載オーディオだけの普及に過ぎず、用途の広がりにブレーキがかかっていた印象のBluetoothは、他の新しい通信技術に転換されてしまうのではないかと感じた時期でした。
 それを一転させたのが2009年12月Bluetooth 4.0の登場です(正式なリリースは2010年7月)。低消費電力デバイス向けに省電力に特化したBluetooth Low Energy機能を追加し、新しい規格として一般公開されました。これをきっかけに、スマートフォン、スマートウォッチ、小型の追跡タグなどに用途が拡大し、中でもスマートフォンの登場が社会的には大きなインパクトになりました。携帯電話の時は、日本および海外キャリアの動向がそれぞれ異なり、Bluetooth機能をキャリアごとに合わせるのが困難でしたが、iOSとアンドロイドが2大プラットフォームのスマートフォンではBluetoothの接続性が飛躍的に改善されました。

これからどのような用途や活用場面が期待されますか

 スマートフォンとヘッドフォンというように、これまでBluetoothは1対1の近距離無線通信を行う技術として定着してきました。しかし、新たに「1対多」あるいは「多対多」というデバイスをリレーして通信する「メッシュネットワーク規格」が追加されたことで、IoTを実現する通信方式として注目され実用化が進んでいます。例えばスマートビルディングへの活用では、ビル内の設備にBluetoothを組み込むことによって、ケーブル接続なしで管理できるようになります。特に照明設備に注目が集まっており、既存のビルでもBluetooth搭載の照明器具に置き換えればビル全体の照明制御がスマートフォンなどの端末で可能になり、省エネの観点から普及が期待できます。また、人感センサーで部屋の入退出を管理すれば、室内に人が不在になった段階で消灯できるようになるほか、空調設備との連動も可能です(図-1)
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次に、「方向検知機能」をBluetoothに搭載して正確な位置の把握や追跡を行う位置情報サービスの展開です。屋内ではGPSが届きにくい、あるいは検知の精度が低いという課題があるため、センチメートル単位で位置の測定を可能にするBluetoothは、広いショッピングセンターや空港での案内ツールなどに応用できます。ショッピングセンターでは、行きたい店の案内や現地点からのルート案内が可能で、初めて訪れる人にとっては便利です。空港では、同じく搭乗口までのルート案内のほかに、搭乗便のフライト情報など、さまざまなガイダンスが受けられます。こうした応用展開も、メッシュネットワークと並行して取り組むことで汎用性の面で価値が高まると考えています(図-2)
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 さらに「オーディオの次世代規格」の策定により、車載オーディオの利用シーンで新たな展開が期待できます。通常、車載オーディオでBluetooth が使われる時は1対1の通信ですが、新しい規格では、音声データを複数人のヘッドフォンでシェアできるだけでなく、音声品質も格段に向上するという2つの利点があります。Bluetooth Low Energy機能が登場した当時でも、車載機器業界では機能的な変化を求める動きはありませんでした。しかし、音楽をシェアしたいというニーズが徐々に浮上し、高品質・低消費電力を実現する次世代の規格で既存のBluetoothオーディオ機器からの入れ替えが進むと期待され、当社では「NetNucleus Bluetooth」として積極的な展開を開始しています。

将来的な展望についてはどのように考えていますか

 汎用性が高く幅広い活用を可能にするのがBluetoothの強みだと考えています。特に、スマートフォン、タブレット、パソコンすべてにBluetoothが搭載されているので、これらの端末と接続させることを考えれば展開はより一層拡大できるはずです。現在は、活用範囲の拡大が期待される3つの市場に向けた研究開発を進めています(図-3)
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 身近な「アクセサリー市場」では、マウス、キーボード、ヘルスケア端末などの日常的に使うものに搭載されて暮らしやビジネスの利便性が飛躍的に向上しました。「スマートインダストリー市場」では、出入管理、人員・資産追跡など工場の生産性向上に活用されています。そして「スマートビルディング市場」では、省エネと利便性の両面からさまざまな設備との連携が始まっています。これら3つの市場では従来の通信技術でニーズに対応しているケースもありましたが、Bluetoothの活用で精度は間違いなく向上します。

 IoTが今後ますます私たちの暮らしに浸透していく中で、通信距離やコストの面で、現状はBluetoothほど適した通信技術はほかに見当たらないことから、Bluetoothこそがスタンダードな技術として社会に受け入れられると考えています。そして、中核的な役割を果たす「メッシュネットワーク規格」「方向検知機能」が連動し、利便性がビルディングという1つの建物の中だけにはとどまらず、Bluetoothは人々が暮らすコミュニティ全体、人々のライフスタイル全体で新しい価値を創造していくと確信しています。
 当社は、今後もBluetoothの市場ニーズに対応したさまざまな研究開発を進めて、Bluetooth SDK「NetNucleus Bluetooth」の商品構成の強化を図り、多くのお客様の期待に応えていきたいと考えています。

※記事内における内容、組織名、役職などは2021年9月公開時のものです。
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