東芝情報システム株式会社

意欲あふれる優秀なLSIエンジニアの海外採用、親日国ベトナムとの連携

半導体業界ですでに取りざたされている開発人材の不足に対し、当社は海外リソースの積極活用を進めています。親日的で優秀な人材が豊富なベトナム社会主義共和国(以下、ベトナムと表記します)に着目し、現地の東芝グループ企業と協力体制を組んで海外人材を採用。日本において教育と技術実習を実施した上で活用を行っています。今回は文化の伝承、コミュニケーションの大切さ、そして業界動向を見据えた当社の考え方についてご紹介します。
LSIソリューション事業部
大塚 伸朗

LSIソリューション事業部
大塚 伸朗

業界の動きと当社のスタンスについて説明してください

私たちの生活は、もはや半導体無しでは成り立たなくなっています。家電製品をはじめ、パソコン、スマートフォン、自動車など、電気で動くものには必ずと言って良いほど半導体が使われています。さらにパワー半導体が社会インフラを支え、個人が消費する製品だけでなく、社会インフラ全体と半導体との絆が強くなってきました。

市場に目を向ければ、世界の半導体市場はこの半世紀成長し続け、今後も伸長の余地が十分に見込まれます。日本国内メーカの勢いには翳りが見えていたものの、海外メーカの日本進出や日本企業の共同出資による新しい専業メーカの設立など、市場を活気づける明るい話題が出ています。つまり国内外共に半導体市場の発展が見込まれ、当社のLSIソリューション事業部としても多くの半導体ベンダ様、セットメーカ様の開発に貢献すべく、体制を強化する必要が出てきているのです。

優秀な人材を海外に求める取り組みとはどのようなものですか

お客様からの受託開発業務に関し、技術面での貢献度をさらに向上させていくために、優秀なエンジニアの確保は常に取り組まなければならないテーマです。さらに半導体製品の市場拡大と呼応するように半導体自体の高性能化や高機能化が進み、国内における開発エンジニアの不足が顕在化してきました。こうした背景から、当社は海外の人的リソースを活用する動きを加速させています。

そこで注目したのがベトナムでした。ベトナムはハイテク分野の成長が著しく、若く真面目で優秀な人材の宝庫です。そして何よりも親日文化が古くから定着している国です。ベトナムではソフトウェア開発に比べてハードウェアやチップの設計が途上段階にあったため、その分野の開拓も含めたいという狙いもありました。現地に拠点を構える東芝ソフトウェア開発ベトナム(TSDV)と連携してハードウェアチームを組織し、(TSDV)として現地の学生を採用する方針を立てました。

(TSDV)は2007年、ベトナムに設立され、ソフトウェア開発をメインに業務を行っています。この連携でハードウェア分野の業務を小規模ながらも新たなミッションとして掲げてもらいましたが、さまざまなハードルがありました。親日的とはいえ文化の違いはあり、業務面でも非常に繊細で特殊な技術を要するLSI設計では、開発会社ごとに思想や手法が異なるため、まず当社のやり方を理解してもらうことが必要でした。そのため、現地採用後の2年間は当社(日本)での技術実習があることを伝えたうえで、採用活動を行っています。

技術実習では設計の基礎技術を学び、設計の実務経験を積むプログラムについては英語ではなくあえて日本語で行います。現地には日本語をマスターしたい学生が多く、そうしたモチベーションも加わって2年間の技術実習は充実したものになっています。

(TSDV)のあるハノイには、VNU(Vietnam National University, Hanoi)やHUST(Hanoi University of Science and Technology)など、ベトナム国内でもトップレベルの大学があります。この制度に魅力を感じた学生が入社を希望し、採用初年度の2015年には一期生3名の技術実習を受け入れ、その後も継続的に採用を続けています。
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          当社と(TSDV)とHDCの関係図

技術実習を終えたメンバーが活躍するHDCとは

ベトナムでの採用活動を開始した翌2016年8月には、(TSDV)の中にHDC(Hanoi Design Center)を開設しました。HDCは、日本での技術実習を終えたメンバーが帰国してから設計業務に従事する場です。開設にあたり日本から技術担当者を(TSDV)に派遣しましたが、運営が軌道に乗ってからは現地のメンバーがマネジメントから実際の設計までを行っています。

HDCでは日本でお客様から受託した設計を行う業務のほかに、当社独自の研究開発活動へ参画してもらい、将来技術の検討や習得を進めてもらっています。さらに、当社としてVNUやHUSTとの共同研究も進めており、HDCや(TSDV)のメンバーとの連携のもとで新たな取り組みも積極的に行っています。

ベトナムでの海外人材採用が本格化し、活動が順調に進むかと思われてきた頃、世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。コロナ禍の3年間は、(TSDV)に入社したもののすぐには日本での技術実習ができない事態になり、当社のマネジメントメンバーも現地訪問が叶わなかったことでコミュニケーション不足が生じました。しかし、新型コロナウイルス感染症の収束が近づくにつれ、ベトナムからの技術実習や我々のベトナム現地訪問も復活し、現在では10名以上のメンバーが、お客様から受託した開発業務や独自の研究開発などで活躍しています。
◇ TSDVからの出向者/ジャンさんへのインタビュー
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          LSIソリューション事業部
          Vu Huong Giang


来日前、日本に対してどのようなイメージを持っていましたか?

日本に来る前、私は日本について聞いたり読んだりしたことに大きく影響を受けていました。ベトナムでは日本のことを「日出ずる国」や「桜の国」と呼びます。私の心の中の日本は、いつも輝いていて美しいものでした。また日本の生活に関するブログを読んで、新幹線の近代技術や自動販売機の便利さに感銘を受けていました。ですが一方で、日本は頻繁に地震や大きな嵐が起こると聞いていたので、少し危険だとも思っていました(笑)

日本に来て楽しかったことは何ですか?

交換留学で初めて日本に来て以来、私は日本に魅了されてきました。だからこそ私はここにいます。今回の来日前、私は規律ある労働と長時間労働を覚悟していました。ですが東芝情報システムでは幸運にも素晴らしい職場環境に恵まれ、日本人の同僚や上司から多くのことを学べています。私は品質と時間厳守、継続的なコミュニケーションを重視する日本の働き方を日々学んでいます。ベトナムでしか働いていなかったら、このようなことは分からなかったでしょう。

私は、人生と仕事は常にバランスしているべきだと信じています。仕事以外でも、街を散策したり、お祭りを体験したりすることは、新鮮で興味深い経験をもたらします。日本の桜や山、海などの自然の美しさ、さらに料理の多様性や人々の優しさと礼儀正しさのおかげで、日本での生活はとても楽しいものになっています。

日本に来て困ったことはありますか?

はじめは言葉がハードルでしたが、積極的に日本語スキルの向上に努めてきました。 日本の方は常に熱心で忍耐強いので、ボディランゲージを含め、さまざまな方法でコミュニケーションが取れています。また仕事の中で新しいスキルを学ぶこと、基準に従うこと、期限を守ることなど、いくつかの課題にも直面しました。ですが私は、これらの困難を個人的および職業上の成長の機会と捉えています。

私にとってもう一つの問題はホームシックです。初めて家族と離れて暮らしたので、仕事が終わるといつも孤独を感じていました。ホームシックに対処するために、仕事のあとは日本語を勉強したり情報を更新したりして、今は克服できています。

毎日の仕事は楽しいですか?

はい、デバイスの特性について学び、パラメータを調整して機能の実行を確認することはとても楽しいことです。仕事で時々トラブルが起きることもありますが、上司との継続的なコミュニケーションを通してスケジュールを守れています。また、日々の仕事が日本語スキルを向上させるモチベーションにもなっています。同僚ともっとコミュニケーションをとり、チームの成功に貢献したいと思います。

将来、どのような半導体エンジニアになりたいですか?

半導体設計のハードウェアとソフトウェア、両方の専門知識を備えた総合的な半導体エンジニアになりたいと考えています。半導体の分野には、設計から製造、パッケージ化、電子機器への組み込み前テストなど、多くの工程があります。私は、チップの製造作業すべてに参加できるようになりたいと思っています。今勉強している知識と技術を活かして社会に貢献し、人々の生活を向上させる製品を生み出したいのです。日本とベトナムの発展に貢献できる半導体エンジニアになること、また他のエンジニアを指導し、刺激を与えることができる半導体エンジニアにもなりたいです。

ベトナムに帰国後も日本と関わり続けたいと思いますか?

ベトナムに帰っても、ぜひ日本と関わっていきたいです。日本の同僚、友人、上司と良好な関係を維持し、定期的に連絡を取り合いたいと思っています。日本での経験を、ベトナム人だけでなく海外の友人たちとも共有したいですね。

海外の優秀な人材に期待

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          LSIソリューション事業部
          長田 大輔


(TSDV)からの研修生には、FPGAの回路設計検証を担当してもらっています。
彼らは技術習得に対するモチベーションが非常に高く、難しい課題も自分で調べながら解決しています。また自分で解決できない問題があったときには、それを資料化して分かり易く私たちに説明してくれます。コミュニケーションに関しても、来日した当初に比べて格段に日本語力が向上しており、日々の会話に困ることもなく報告書も日本語で作成することが可能です。研修期間終了後ベトナムに帰ってからも、日本で身につけたスキルを活かして、我々の力強い設計パートナーでいてくれることを期待しています。
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          LSIソリューション事業部
          山口 亮


研修生の皆さんには、アナログ回路のレイアウト設計を担当してもらっています。
皆さん総じてモチベーションが高く、難しい設計技術であっても自己学習を重ねながら次々と習得してくれています。わからないことや問題が生じた際には即座に相談してくれるので、課題解決が迅速に行えます。また日本語能力の向上にも積極的に取り組んでおり、驚くべき速さで日本語スキルを向上させていますね。おかげで日本語での会話には、ほとんど問題がありません。2年という短い研修期間ですが、お互いに影響を与え合い、共に成長できることを願っています。もちろんベトナムに戻った後も、我々の強力な設計パートナーとして活躍してくれることでしょう。

ベトナムでのライバル企業の台頭を見据え、今後の方針を教えてください

世界の半導体市場が成長するにつれ、当社と同様に各国のハイテク企業がベトナムに進出しています。当社にとってはコンペティタが増え、優秀な人材の取り合いになる可能性があります。しかしベトナム人の親日感情、日本語を勉強したいという意欲ある若者が多くいることが、現時点ではアドバンテージになっています。

また、ベトナムの大学にはOJTプログラムがあります。日本のインターン制度はあくまで勉強目的なので実際の業務に参加してもらうことはできませんが、このOJTプログラムでは、僅かではありますが給料を受け取って実際のビジネスに関わることができます。そのため向上心の高い学生は半年から1年程度OJTプログラムを経験した後、卒業と同時に(TSDV)への入社を希望してくれるという流れができてきました。このようにHDCのメンバーが定着し活躍することで、日本国内のメンバーにとっても良い刺激になります。
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半導体業界には、グローバルなエコシステムの潮流が来ています。半導体の開発を一社で全て担うのではなく、開発工程ごとに、そこを得意とする企業が連携する流れです。その各プレーヤーは、いろいろなお客様に横串を刺す形で貢献する訳です。当社は半導体分野における設計や評価などで、このようなエコシステムの一端を担うビジネススタイルを取っていることから、ベトナムとの連携を強化し、世界の半導体業界における貢献度を高めていきたいと考えています。今まさに、ベトナムの優秀な頭脳たちが活躍するビッグチャンスが訪れようとしているのです

※記事内における内容、組織名などは2024年5月公開時のものです。
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