東芝情報システム株式会社

エッジデバイス向けデータ予測機能をハードウェアIPとして提供

AI技術を活用したデータ予測は広範な分野への応用が期待されていますが、予測精度の向上と速い処理時間の実現はトレードオフの関係にあります。それを自社開発した独自のアルゴリズムによって解決したのがRealtimeForesight(リアルタイムフォーサイト)です。C言語による組込みのほか、FPGA設計、ASICに適用したAIアルゴリズムとして、さまざまな分野での活用が期待できます。
LSIソリューション事業部
富樫 政寛

LSIソリューション事業部
富樫 政寛

AI予測技術で解決すべき課題とは何でしょうか

 予測技術にはカルマンフィルタ、再帰型ニューラルネットワークなど、原理の異なる複数の予測技術がありますが、その中でもAIを利用した予測技術が注目を集めています。
 AI予測技術はさまざまな分野に使われており、例えば身近なところでは小売店の販売予測や倉庫の在庫予測、経済の分野では株価などの変動予測にも使われています。他にも電力の需要予測や機械の故障・劣化予測など、挙げ始めればキリがありません。

 このように各分野で広く使われ始めているAI予測技術ですが、この技術には両立が難しいと言われる「予測精度」と「処理時間」の問題があります。予測精度を上げるためには計算量を増やす必要があるので、処理に時間がかかります。また逆に処理時間を短くするために計算量を減らすと、予測精度が下がってしまいます。つまり、「予測精度」と「処理時間」はトレードオフの関係にあるのです。これがAI予測技術で解決すべき課題です。1次元、2次元、3次元と扱うデータが複雑になると、当然のことながら計算に膨大な時間がかかってしまいます。この問題を解決したのが、当社の開発したRealtimeForesightです。

RealtimeForesightはどのようにして誕生したのでしょうか

 私は通信向けアナログICのADコンバータ開発をきっかけに、2011年からアナログ関連の開発に携わるようになりました。その頃は、実際のチップができあがった後の機能検証や、アナログの性能評価が主な業務でした。この経験を活かして、2013年からはセンサー技術を採用したアナログICの開発を主体的に行うようになり、お客様の製品に必要な機能や仕様の検討、動作検証、量産するまでの評価を行ってきました。さらにお客様の製品に搭載後の最終的な性能評価の業務を通じて、エンドユーザー様のさまざまな声を聞くことができました。

 その中で、お客様から性能を上げるためにリアルタイム性を追求したいとの要望が出るようになり、2016年頃から急速に注目度が高まっていたAI技術を取り入れることになりました。これがRealtimeForesight誕生のきっかけです。AI導入には幾多の試行錯誤を繰り返し、技術的な実現性が高まってきたのは2019年からです。
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RealtimeForesightの活用が期待されるデバイスについて聞かせてください

 今日では、AI機能を搭載した多くの製品が登場していますが、AIによる予測は、精度を追求すればするほど演算処理に時間を要してしまい、リアルタイム性が実現できません。また、車の自動運転に使われている画像処理を行うAIの予測技術は、非常に複雑なアルゴリズムが必要になり、エッジデバイスや汎用機器への実装が難しくなります。

 当社が開発したRealtimeForesightは、計算量を極限まで減らして省力化を図り、時系列で変化していく3次元データをAI を活用して予測する技術で、エッジデバイスを主なターゲットにしたものです。この技術開発にあたり、3次元データを高速で予測できるAI技術の実例はありませんでしたが、センサーデータの検出からハードウェア制御に至る遅延時間の改善、データの識別精度向上の技術を生かし、市場拡大が見込まれるエッジデバイスへの展開を目指しています。

どのようにしてリアルタイム予測を実現したのでしょうか

 RealtimeForesightの開発を始めたきっかけは、タッチパネル用のペンを使う時の操作でタイムラグによるストレスを感じたことです。これを解決するには、膨大な量のタッチセンサーのデータを短時間で処理しなければなりません。つまり、ペンの位置、筆圧、傾きの3次元情報すべてを同時に取り込んで予測していくことになります。株価予測など、ある程度予測に時間を要しても良いAI技術はこれまでも存在していましたが、RealtimeForesightは文字通りリアルタイム性を追求し、ペンを操作時のタイムラグを解消する必要があることから、同様のAIでは解決できないと考えました。そこで「演算の処理時間が長いほど反応に遅延が生じる」、「計算量を減らすと予測精度が低下する」という2つの問題を解決するため、演算方法に独自の工夫を取り入れて描画の遅延を解消しました(図-1)
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 演算処理では、「移動特徴」と「形状特徴」の両方を抽出します。しかし2つの特徴が混ざると、どちらの特徴なのかが演算の中で分別困難になり、特徴量の抽出精度が悪化し予測精度に影響を及ぼすことが判明しました。そのため、RealtimeForesightでは、両方の特徴を分離して抽出する工夫を取り入れました。この独自アルゴリズムにより、リアルタイムに時系列で検出されるデータに対し、遅延を発生させることなく高精度予測を実現したのです。

 さらに工夫を施した点は、デコーダの処理です。例えば、温度センサーは絶対値を扱うと季節や周辺環境によってデータの予測が変わってきます。このような個別条件ごとにRealtimeForesightのアルゴリズム構成を最適化し、データを予測させることは可能ですが現実的ではないと考え、データの変化量を扱い予測を行いました。しかし、変化量を用いる場合、正負の符号データがデータに混在することになり、特徴量の抽出精度が課題となりました。負(-)の情報を扱うことは精度向上に欠かせない要素であるため、混在する正負の符号データをデコーダ処理の際に工夫し、予測精度の向上につなげました。このようなアルゴリズムを適用したことで、時系列で変化していくデータの予測が実現可能となりました(図-2)
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RealtimeForesightの今後の展開について聞かせてください

 RealtimeForesightは、FPGA化に伴いPythonのライブラリを展開し、必要な演算処理のみを実装することで回路規模を小さくすることができました。ソフトウェアへの組込みも可能ですが、FPGAではソフトウェアに比べて10倍速い処理時間で予測を実現します。タッチセンサーの例では、1500を超えるセンサーデータを0.5ミリ秒で予測可能です。また、データの性質に合わせてアルゴリズム構成を変更できる機能をFPGAに実装しました。この機能により、お客様のさまざまな要求に対応できるようになりました。(図-3)
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 センサーデータを検知してから制御に至るまでのタイムラグがなくなることで、課題が解決する場面はたくさんあると思います。RealtimeForesightは、そのような時に超高速で高精度にリアルタイム予測を実現するソリューションとして活用が期待できます。技術開発の糸口になったタッチペンの移動予測についてご紹介したように、さまざまなエッジデバイスを手掛けているお客様に採用していただきたいのはもちろんです。今後の展開として、次の6つ視点からRealtimeForesightの用途は広がっていくと考えています。

①「データ予測」…TOF(Time of Flight)センサーによる測定対象物のリアルタイム検知や追尾。
②「レイテンシー改善」…ドローンやロボットから送られるセンサー情報のリアルタイム観測。エッジデバイスとクラウド間で発生するデータ通信のタイムラグ解消。
③「判定・識別の先取り」…温度の異常変動を早期検知し温度劣化や破壊を抑止。センサーの駆動時間短縮によるセンサーの高寿命化。
④「ノイズ低減」…音声データのホワイトノイズをリアルタイム除去。
⑤「判定・識別の精度向上」…高度な特徴抽出による指紋や静脈の認証精度向上と認証時間短縮。
⑥「小型化」…ASICによるエッジデバイスへの省スペース実装と低消費電力を実現。

 当社はエッジデバイスなどへの搭載が最適とされるAIの予測技術としてのRealtimeForesightを、新しいAIソリューションとして展開していきます。

 RealtimeForesightは、AIアルゴリズム構築を担うSIソリューション事業、組込みソフトウェアを担うエンベデッドシステムソリューション事業、そしてFPGAの設計を担うLSIソリューション事業、これらの知見を結集し開発できました。将来に向けて大きく成長が見込まれるエッジデバイス市場に参入していくにあたり、LSIソリューション事業はハードウェアのAI技術を活用し、設計サービスのデザインソリューション、IPなどのLSI製品を提供するプロダクトソリューションという2つのソリューションを軸に、お客様の開発を支援するために技術開発を進めてまいります。

※この記事に掲載の、社名、部署名などは、2021年9月現在のものです。

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