東芝情報システム株式会社

遅延解消&高音質、音楽体験が格段に変わる LE Audio搭載のBluetooth® 5.2

今では私たちの生活の中に無くてはならないBluetooth技術。ワイヤレスイヤホン、スピーカー、スマートウオッチなど様々な機器をつなぎ、暮らしをより快適にするために大きく貢献しています。今回はBluetoothに携わる技術者としてBluetooth5.2に期待される可能性、技術者としての思いを紹介します。
エンベデッドシステム事業部
里城 晴紀

エンベデッドシステム事業部
里城 晴紀

Bluetoothに携わってきたことを振り返り、これまでの思いを教えてください

Bluetoothは歴史の古い無線通信技術です。私が本格的に関わり始めたのはBluetooth3.0からで、当社に入社後しばらくして車載機器用のBluetoothに関わりました。当時の正直な感想は、「思うようにつながらない」でした。その頃は、標準規格なのにデバイスごとにつなげるのがどうしてこんなに難しいのかと、頭を悩ませながら取り組んでいました。自分がつくったBluetoothスタックではないものを使っていたので、なおさら疑問だらけだったのかもしれません。

しかし、東芝のBluetoothスタックに携わるようになり、次第につながらない原因が分かるようになってくるのと同時に、扱い方にも慣れていきました。また、一人のBluetoothユーザとして使っていただけなら気づかなかった技術が次第に理解できるようになると、近距離で使う手頃な無線通信としてのBluetoothはとても優れていると思うようになりました。

Bluetooth5.2の特徴やこれまでの規格との違いを教えてください

Bluetooth5.2にはLE Audioが新機能として加わりました。LE Audioには次の特徴があります。
・高圧縮なLC3コーデック(Low Complexity Communications Codec)
・複数の独立したデータ伝送ができるマルチストリーム
・複数のデバイスに一斉配信ができるブロードキャスト(Auracast™)
・送受信パワーを最適化し消費電力を抑えるLow Energy Power Control技術
・強化されたセキュリティ機能
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LE Audioとはどのような機能で、どのようなイノベーションが期待できますか

LE Audioの特徴であるマルチストリームやブロードキャスト(Auracast™)によって、色々なBluetoothデバイスがつながるようになり、公共の場でみんなが同時に音楽を聴けるようにもなります。Bluetoothによる音楽ストリーミングは、従来のクラシック規格でプロファイルができあがっていましたが、それがLE Audioになるとそれがさらに拡張され、新しい活用シーンが産まれてくることが期待されます。

Bluetoothスタックの実装技術者としては、特に従来までの基本的な仕様からでは難しかった音の伝送遅延を、LE Audioで根本的に解消することに注力しました。
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例えば無線イヤフォンでゲームを楽しもうとすると、イヤフォンから出る音が遅れるなど、Bluetoothはレスポンスのスピードを求められる用途には不向きでした。数百msecの遅延が人間の耳には違和感を与えてしまいます。LE Audioは、その遅延をできるだけ低減して十分の一以下にするためにつくられています。同じことをクラシック規格でやろうとすると実現は極めて困難で、どうしても遅延が大きくなってしまいます。Bluetoothの技術は補聴器でも多く使われ、日常生活に定着しています。補聴器を装着している人は大きな音で聴き取りやすくなっていますが、会話の相手の声やテレビの音が微妙に遅れるとストレスを感じてしまいます。このような現象を解決できるのがLE Audioと言っても良いでしょう。
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          音楽やゲームを楽しむ             補聴器を使う

LE Audioの実装技術で苦労したことはどのようなことですか

私は仕様を作るというよりは仕様通りに実装する立場なので、技術そのものを考える技術者とは違う面の苦労がありました。それは、微妙なタイミングを合わせる実装です。限りなく遅延のないタイミング合わせが一番の苦労でした。

その他にも、クラシック規格では基本的に1対1の通信ですが、1対多、つまり複数の端末に同時に音を届ける用途が増えてきたので、その実装も高いハードルでした。例えば、オーディオ機器が1台だけ搭載されている車で同時に3人が音楽を楽しみたい場合、クラシック規格ではその分の接続が必要でした。しかし、LE Audioには同じデータを同時に全員に対して送る仕様が盛り込まれているため、そうしたLE Audioの用途を拡張するための技術的苦労もありました。

また、Bluetoothは無線なので外部からの不正な電波で攻撃されることがあります。そのため、さまざまな不正行為にも耐えられるよう、機器の認証方法などが常にアップデートされ続けています。このようなあまり表面化されていない部分を理解し、実装していくことも私の使命です。

Bluetoothで今後追求していきたいことを教えてください

スタック実装技術者の立場から追求すべきポイントとしてはやはり遅延の解消です。特に音楽ゲームを楽しむ人にとってはわずかな遅延がストレスになるので、遅延ゼロをとことん追求したいです。「有線でつなげればいいじゃないか」と言われればそれまでですが、音楽ゲームプレーヤーは無線だからこそ味わえる便利さを追求します。それは、スマホから伸びる有線コードが体に纏わりつく不快感のない移動のしやすさが無線にはあるからです。
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音楽は一定の時間ごとにデータを送らないと途中でデータが途切れて再生できなくなることがあります。そのため、Bluetoothの電波を一定時間ごとに発信し、同じ速度でデータの送受信が可能であるかが重要です。さらに、無線送信の際にはデータを圧縮しないと電波に乗せることができません。送信側で圧縮して受信側で復元しますがアルゴリズムによっては遅延が発生するので、そこを工夫して遅延が少ないアルゴリズムを実装します。そうした苦労が実り、ゲームに限らず、スマホで映画を観ていて中座するとき、音だけでも聞いていたいというニーズに応えたり、今後、街中の各所にブロードキャスト端末が設置され、いつでもどこからでも配信が可能になる時代が訪れたりすれば、Bluetoothの優位性がもっと発揮されると確信しています。

※記事内における内容、組織名などは2024年7月公開時のものです。
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